何で泣いているのかさえ、あの時の私には判らなかった。
ただ呆然と、頬に何か伝っているとしか理解できなかった。
目の前には、大量の紅い液体が。
力無く床に伏す、父と母の躯。
赤黒く汚れた、私の衣服。
そして、くろいかげ。
それが、私が泣いた最後の記憶。
尤も、今じゃあまり覚えていないけど。
思い出そうとしても、霧がかかったようにその時の情景がぼやけてしまうから。
九歳の『あの日』以来、私は泣けなくなった。
そう、十六歳になる今でも。
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