『私のレンアイ考察』


 水曜日の五限目は辛い。毎週、この時間になると睡魔が襲ってくるのだ。そして今、私はその睡魔と戦 っている。……勝てた試しはないケド。

「えー、フランスの百年戦争とは……」

 世界史の原田か何か言っている。毎回コイツの所為で私は眠くなるのだ。退屈な授業。ああ……日差 しが暖かいなぁ……。

「……い……おーい……中島ぁー……中島春樹さーん」

ムカツク声が聞こえる。誰だ、私の眠りを妨げるのはっ!!まぁ、予想はつくケドさ。でも、ウザイか ら無視っ。

「おーい、起きろー。……あ、原田がコッチ見てる」
「っ!!」

 思わず反応してしまった。顔を上げて原田の方を見たが、彼は相変わらず退屈な授業を進めていた。そ う、私の方なんて見向きもせず。騙された事に腹を立てつつ、先程からウザかった奴を睨む。奴―鈴宮直 人を。鈴宮はニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ、頬杖をついて私を見てる。
 私は奴のこの笑みが、堪らなく嫌いだ。この表情の時の鈴宮は、決まって良くないことを思案している。 小学生の頃からの腐れ縁の為、奴の事は嫌と言う程知っているのだ。だから好きな食物も嫌いな食物も知 っている。そして、好きな人のタイプも。
 別に、家が近かったとか、親同士が親友だったとか、特別な事情は特に無い。唯、委員会や班など、一 緒になる事は頻繁にあったが。本当、腐れ縁としか言い表わせない。まぁ、でも。少女漫画やら小説やら では、このシチュエーションで主人公は相手にLOVEってしまう訳で……。私もその、不似合いにも乙女 っぽい恋をしてしまったのである。
 確かに奴のあの笑みは嫌いだ。だけど、そんな奴を好きになってしまった私。きっとそんな奴に恋をし た乙女は、「嫌いだけど好き」という矛盾に悩まされているのだろう。それはとても苛立しい事であるが、 同時にとても愛しく思えてしまうのだ。そんな感情さえも矛盾している。だけど嫌いではない。恋する乙 女はムジュンの塊なのだ。

「もしもーし、春樹さん?」

 おっと、ヤバいヤバい。つい自分の世界に入ってしまった……。私の悪い癖ね。

「何よ、鈴宮直人」

 目を向けずに私は問う。今奴と目を合わせたりなんかしたら、私の心臓が破裂してしまう。只でさえ胸 がキューキュー締め付けられているんだから。

「……俺さぁ、お前好きだわ」
 ……は?え、な、い、今……え?

「い、今なんて言った……?」

 恐る恐る私は奴に尋ねる。私の耳が正常に機能しているのなら、奴は今「好き」と言った。

「ん?だから、お前の事が好きだって」

 ……あー、私は夢を見ているのね。こんな都合の良い夢が見れるなんて……私ってばラッキー。 あはは〜……。

「おい、目が逝っちまってるぞ、春樹」

 鈴宮直人が呆れ顔で言ってくる。なんて失礼な奴なんだっ!!本当、誰の所為だと思っているんだ。あー、 もー!こんな心臓に悪い夢、早く覚めてしまえっ!!

「……すげー百面相」
「……うるさい。バカ直人」
「で、返事は?」
「夢に返す返事は無い!!」

 夢のくせに期待させるな!!ちらりと直人を横目で見てみる。これが現実なら良かったのに……。

「お前さぁ、これが本当に夢だと思ってるワケ??」

 呆れたような顔付きで直人は言った。何それ。夢は夢でしょ。

「はぁ……お前どこまでボケてるンだよ」
「なっ!!だってっ……!!……だって、こんな都合の良い話があるわけ無いじゃない……」

 もう嫌、こんな夢。悪質だよ……。その時、原田がコッチを見た。……ヤバい。

「中島!!鈴宮!!お前達は授業を受ける気があるのかっ!?廊下に立ってろ!!」

 い、今時“廊下に立ってろ”は無いんじゃない?古いよ……古過ぎるよ。直人も同じ事を思ったのか、 原田に向かって「廊下に立ってろは古いと思いまーす」って言いやがった。本人に向かって言うか、普通? いや……アイツは普通じゃないから仕様が無いのか……。あーあ、神経を逆撫でるような事言っち ゃって……。

「なっ……!!二人共っ、み、水いっぱいのバ、バケツを持って廊下に立ってろっ!!」

 ほら、見た。茹でダコみたいに顔赤くしちゃって……って、……え?二人共?今、二人共って言っ た?





「アンタの所為なのに、なんで私まで……」
「まぁまぁ。お陰で二人っきりになれたんだし」

――出た。奴のニヤニヤ顔。

「何、企んでるのよ」
「俺、マジでお前好きだから。たから、夢だと思わないでほしい」

 真剣な顔……真摯な眼……。 これ……現実だと思っていいのかな?
       

















「……私、も、直人が……――好き」


 









 







 二人がこの後付き合い始めたのは、また別のお話。


 









 







END