そして、彼女はこう言った。


私こと、グリタァ・ガーネットは、軍人というものが大嫌いだ。

幼い頃は嫌いじゃなかった。

だけど……軍人が起こす戦争によって、私は家族を失ってしまった。

それ以来、私は『戦争』は勿論、『軍人』も嫌いになった。

だから……




あんな出逢いがあるなんて、思いもしなかった。






『序章』





『グリタァ、逃げなさい!!』

……苦痛に満ちた、母の声。

『お前だけでも生き延びえろっ』

……苦痛に満ちた、父の声。

『おねぇちゃん……さむいよぉ』

……苦痛に満ちた、妹の声。

そして……


逃げ惑う私。

火が沢山……家が、燃える……。

私は……独りになってしまった……。


 + + + + + +


 日の光の眩しさで、グリタァは目覚めた。過去の夢を見ていたようだ。三年前
の……嫌な記憶。シーツには涙の乾いた痕があった。自分でも気付かぬうちに泣
いていたのか……。と、その涙の痕を見ながらグリタァは思った。
 グリタァが家族を失ってから三年、今住んでいるこの村に逃げ延びてから三年。
グリタァは美しい少女に成長していた。しかし、家族を失ったショックから心を
閉ざし、冷めてしまっていた。

「三年……か」

 そう一言呟いて、グリタァは着替え始めた。


 + + + + + +


 日が昇った頃、グリタァは町に出掛けることにした。グリタァの住む村から町
までそう遠くは無い。ゆっくり歩いても三十分程度で着く。

「今日の夕飯は何にしようか」

 ……なんて、誰かに尋ねる訳でもなく、小さく呟いた。食事のことを尋ねる程、
親しい人間なんてこの世に居ない。私は「あの日」から今まで、ずっと独りだっ
たのだから。それに……





これからも「そのこと」は変わらない、きっと。


 + + + + + +


 どのくらい歩いただろう。もう、彼此四十分は歩いている。普段なら二十分で
着くのだが……迷ってしまったか?

 ま、歩いていればその内着くだろう。


 + + + + + +


 十分ぐらい経ったが、グリタァは未だに町に着いていなかった。

「迷ったな、これは」

 本当、ついていない。家にお金忘れてきたし。引き返すにも引き返せない状態
だし。つか、どうやったら此処まで来れたのか。謎だ……。

「こんにちわ、お嬢さん」

 その時、背後から優しい声がした。男性の声だ。低く、不思議と透き通ってい
る印象を受ける。「はい?」とグリタァは後ろを振り向いた。一番最初に見たも
のは、透き通っている青い眼。吸い込まれそうな錯覚まで覚える。不思議な眼。
 そして、次に彼女が見たもの。それは……軍人服だった。

「あの、この辺に宿屋とかは……」
「触らないでっ!!」

 青年が言葉を言い終える前に、グリタァは叫んだ。そう、グリタァはこの世で
一番、軍人と言う存在が嫌いだった。


「私に……触れるなっ」