『Merci』 『私、貴方が嫌いよ』 貴方と別れた時に言った嘘。貴方を傷つけた言葉。偽りの言葉。本当は愛しくて愛しくて、 堪らない。貴方は優しすぎたわ。私は知ってる。優しい人は自分がどんなに苦しくても、傷付 いても、気にせず他人を気にかける。 『少しは自分にも優しくしなよ』 私は耐えられなくなって言った。 『偶には自分も大切にしないと……!!』 真剣な言葉だったのに……。 『ユイは優しいね』 なんて言って……。バカよ、貴方は。私は優しくなど無い。自分の事しか考えていないも の。優しいのは……貴方よ、ミノル。 『ユイが俺のこと嫌いでも、俺はユイの事愛してるから。君に迷惑をかけてしまうのなら…… 消えるよ』 ――ヤダ―― 『へぇ……出来るの?』 ――ヤダッ―― 『君の……ユイの為なら』 ――消えちゃヤダッ!!―― 『じゃあ、私の望み通り消えよ』 ……ごめんね、ミノル。でも、貴方は綺麗過ぎるから。私と一緒に居たら不幸になるから ……。だからね、私は貴方から離れなくちゃ。貴方を……解放しなくちゃ。私と云う鎖か ら……。 数日後、私に一通の知らせが来た。ミノルが……この世から消えたという。最初は夢だと思 った。そう、最低の悪夢。夢なら早く覚めて欲しい……。そう思わずには居られなかった。 見てはいけない、夢。だけど、それは夢なんかじゃなく、逃れられない現実だった……。 ミノルは最期まで優しかった。優し過ぎて、愚か……。その所為で命までも落とした ……。ミノルは火事で逃げ遅れた子供を助けに行ったらしい。そのお陰で子供の方は無事だ った。しかし神は、その代償としてミノルの命を奪っていった。ミノルは……炎に呑まれて そのまま……。 私は頬に伝う、暖かなモノを感じた。だけど、拭う気になどなれなかった。その気力さえ、 無かった。嗚咽を漏らし、泣いた。貴方の幻影に縋り付いて、泣き続けた。最後まで優しく、 愚かだった男。私が本気で愛した男。きっとこの先、貴方以上に愛する人など居ない。ごめん ね。“さよなら”も“ありがとう”も言えなかった……。ごめんね。最後まで意地っ張りで ……。だけどね。人の心は不変では無いけれど、この想いだけはずっと……。私は貴方を 愛す事、ずっと誓うよ?ねぇ、ずっと愛してるから。 あれから二年。私は大学に進学した。ミノルが目指した医師になる為に。多くの命を救う為 に。立派なお医者様になるからね……!! ありがとう、優しい貴方。 END |